2008.05.26
成田空港開港30周年!。日本のハブ空港戦略への提言
成田空港が開港30周年を迎えた。世界の主要都市の空港と比べればまだまだ整備は半ばではあるが、日本の玄関口としては機能しているといっていいだろう。しかし計画当時では、ここまで航空需要が増加することも、そして空港の大計的整備が国内の枠を超えた重要な国家戦略になるとは夢にも思っていなかっただろう。近隣のアジア諸国が自国の将来を見据えて積極的に大空港を整備している中で、成田と羽田の並行運用は世界一使いにくい空港、世界一着陸料が高い空港ともいわれ、その問題の解決はなされないまま、これからも首都東京の玄関口あるいは極東アジアの玄関口の地位を確保しつづけなくてはらない。
成田空港は国際線専用空港として、30年前に1本の滑走路でスタートしたが、現在は4000メートル(実質3250メートル運用)と2180メートルの滑走路と2つのターミナルを擁し、年間20万回の発着、約3200万人が利用している。成田への乗り入れを待っている国は40カ国以上に上っているが、すでに満杯状態でそれらに枠が割り当てられるのはいつのことかわからない。一方の羽田空港は成田開業後は国内線専用として、当初は2本の滑走路で運用していたがその後に着々と沖合移転を行い、今では3本の滑走路(2010年にはさらに1本が追加される)と2つのターミナルを擁し、年間30万回の発着、約6500万人が利用している。両空港を合わせると5本の滑走路と4つのターミナル、年間利用者は1億人近くなり、米国アトランタ空港(8500万人)を超えて、文句なしに世界一の大空港ということになる。しかしこの2空港の間は直線距離で約60キロも離れており、これが国内線へのトランジットの不便さの温床となり、日本の玄関の最大のネックとなっている。
最近よく聞く話であるが、空港は国の枠組みではなく地政学的な観点で人とモノを効率的に移動させることを念頭におき、各地に点在している空港をハブとスポークの関係に例えて位置づけるようになった。人とモノの物量の多いハブ空港間は中大型機でピストン輸送を行い、ハブとスポークの間は小型機で結び、運用効率を上げていこうという仕組みである。
当初のハブースポークの関係は、自国内の主要空港(ハブ)と自国内の地方空港を結ぶ形であったが、航空の自由化によりスポークの伸びる先が自国内だけではなく近隣諸国の主要都市にまで及ぶようになった。自国にハブ空港があれば、スポークの根元は自国となり、人とモノはスポークの末端から根元に集まるようになる。このようにハブ空港が存在する国や地域は、国際的な人とモノの集積点となり、経済の発展(ひいては国家の発展)の源泉と考えられるようになってきた。
そのため近隣諸国は自国の空港がハブとなることは国益につながることとし、多くの予算を投入して空港整備に力を入れるようになった。
日本(成田)がハブの地位を失えば、例えば台湾からモスクワを訪れようとした場合、これまでは成田でトランジットしていた乗降客が、香港でトランジットするというようなルートが主流となるかもしれない。また、欧州から北海道へ観光しようと考えた場合、不便な成田でトランジットするよりも、韓国(仁川)でトランジットすることになれば、国内を訪れるのに東京(成田)を経由する必要がなくなるのである。これまで東京に落ちていたおカネが香港や韓国に落ちることになる。ハブ空港として認められるかどうかは国の事情できまるのではなく、便利さや時間、コストといった、乗降客や航空会社の支持をとりつけた空港が選ばれる時代になったのである。
現在の成田は辛うじて東アジアのハブとして世界に認知されているが、その狭さから豊富な国内路線もアジアの地方都市と連携をする路線の乗り入れが十分ではないため、ハブ空港としてはすでに限界にきている。成田の伸び悩みをしり目に、アジアハブの座を虎視眈々とねらっているのが、韓国(仁川)、香港、上海(浦東)などである。すでにシンガポール(チャンギ)は東南アジア地域のハブとして、アジアから欧州方面への窓口としての地位を確保している。欧州やアフリカへの旅行に際し、シンガポールでトランジットした経験のある方は多いだろう。ちなみにチャンギ空港ではトランジット客の空き時間を利用した無料市内観光もツアーも行ってサービスの向上に努めている。
このようにアジア諸国が国家の繁栄の源を作るために、せっせと空港や関連施設の整備をしている中、日本の航空行政はお寒い状況と言わざるを得ない。未だにほとんど乗降客の見込めないような地方空港の整備に力をいれ、肝心の成田(ハブ)問題には抜本的な解決ができないまま、平行滑走路の延伸工事もやっと始まったような状態だ。
ここで日本が発展していくための、夢のハブ空港とは何かを考えてみたい。
日本に必要なハブ空港は、シンガポールのようないわゆる通過型ではなく、アジアから欧米に向かう乗客のための通過型の機能と、海外から東京の都心や日本の主要都市、観光地に旅行客を送る“ポンプ機能”がセットになっていなければならない。現在の成田は通過型空港としての機能はなんとか運営しているが、主要観光地に送るポンプ機能は不全のままだ。都心から離れている成田では距離的な不利は解決できないので、羽田を中心に話を進める。
まずは羽田と成田の機能を明確にわけ、羽田は旅客専用、成田は貨物専用空港として再整備する。羽田はいまから10年かけてさらなる沖合拡張を行い、最低5本(欲を言えば6本)の滑走路をもち年間発着回数60万回を捌けるようにする。アジアから欧米各国への乗降客のすべてを囲い込むことを目標に、東アジアの地方都市との路線も受け入れ可能にする。例えば中国の都市からアメリカに向かうには、上海を経由するよりも羽田でトランジットしたほうが便利、というレベルを目標に整備を行うということだ。そのためには、搭乗ゲート、駐機場を整備し、関空なみのトランジット時間の短縮を行えるよう工夫する。もちろん24時間化は当然であり、沖合移転で空いた羽田開業当初の空港跡地にはトランジット客用のホテルなどの休憩施設と免税店や“MADE IN JAPAN””マーケットを建設し、空き時間も楽しめるようにする。これによって世界最高の通過型のハブ空港機能を確保する。
また、羽田に到着した外国人客を日本の主要都市や主要観光地へ効率的に送り届けるために、今の充実した国内線網はそのまま維持すると同時に、地上の移動インフラも計画的に再整備する。その目玉は空港直下への新幹線の乗り入れと東京駅で分断されている新幹線の接続だ。これによって羽田から東北、上信越、中部、関西圏の主要観光地への新幹線による直接アクセスが実現し、欧米から到着した観光客がたった1度の乗りかえだけで、京都や奈良、東北の有名観光地に到着することができるようになる。
さらにビジネス客の足として都心への利便性をさらに向上させるため、羽田への交通網の再整備を行う。目玉は京急蒲田とJR蒲田間を線路で結び東急多摩川線に直結させ、東急線と京急羽田線の相互乗り入れを行う。これにより、渋谷、目黒、池袋(副都心線経由)など山手線西側からも乗り換えなしで羽田の真下までくることができる。これらの路線を活用すれば、トランジットで時間待ちをする乗降客を一時的に渋谷、新宿に誘引することも可能になる(京急と東急の線路の幅が違い簡単に接続できない事情はあるが・・・)。
これらの施策により、都心からの近さ、トランジットの利便性、空港の規模ともにどれをとっても世界一のハブ空港となる。
このようなプランは、東京への一極集中と非難を浴びそうだが、空港は対外国家戦略の中の最重要テーマであり、無駄な地方空港整備にお金をかけるのであれば、20年後の日本を見据えてハブ空港の整備にお金を投下すべきだ。相手は、韓国、中国、シンガポールなど、強烈な指導力で空港整備を行っている国家そのものなのである。日本もそろそろポスト製造業国家の道を模索すべき時にきている。世界一の治安と地政学的に東アジアの中心となるポジション、世界屈指の経済力、美しい国土と歴史、それらを生かして、アジア金融センター、物流センターをめざし、さらに世界の人々が疲れを癒すための美しい滞在型リゾートとして集中開発を行えば、主要な外貨獲得の手段になりうるものだ。シンガポールしかり、ドバイしかり、多少趣は異なるがモナコなどがそうだろう。地下資源のない自分たちが生き残るための存在意義を明確にし、そのためのインフラの整備を国家体系として計画的に行い、その結果として繁栄を謳歌しているのである。このような国家レベルの戦略を具現化するためには、国が自らの将来像を描き、その青写真を元に主導権をとって整備を強行するような指導力と実行力が必要だ。
今の日本では・・・、夢のハブ空港の実現はそれこそ夢のまた夢だろう。
マンデー