2021.05.28
自分でできる予防から始めよう
医療費の削減は早急に解決すべき社会課題の一つである。平成30年度の国民医療費は43兆3,949 億円、前年度の43兆710億円に比べ3,239 億円、0.8%の増加となっており、さらに、国民医療費の国内総生産(GDP)に対する比率は7.91%(前年度7.87%)、国民所得に対する比率は10.73%(同10.74 %)となっている。
医科診療費を傷病分類別にみた時、最も多いものは「循環器系の疾患」で6兆596憶円、次いで「新生物<腫瘍>」が4兆5256憶円であるが、年齢に着目した場合、65歳未満では「新生物<腫瘍>」が最も多く、1兆5536憶円となる。
(※「循環器系の疾患」とは、主に高血圧、心疾患、脳疾患などのことであり、「新生物<腫瘍>」は、いわゆる癌のことである)
癌は令和元年の死因として男女ともに第1位となっており、その数は2位の心疾患の約1.8倍である。その後は老衰、脳血管疾患、肺炎と続く。癌のみではないが、これらのような病気にならないためには、健康管理が重要であることは言うまでもない。WHO憲章によると「健康とは、肉体的、精神的及び社会的に完全に良好な状態であり、単に疾病又は病弱の存在しないことではない。」と定義されている。この通り、「病気にかかっていない」という状態だけでは健康とは言えず、肉体的にも、精神的にも、社会的にも、全てにおいて良好な状態を健康とさす。一般に、健康でいるために必要だとされることは、「生活習慣の改善」、「食生活の見直し」、「適度な運動」、「十分な睡眠」、「ストレスを減らすために楽観的な考え方を取り入れること」、「ほどよい体温を保つこと」等々様々あるが、実はどれも免疫力との関係性が指摘されている。そこで、生活習慣を改善し、免疫力を高めるのに役立つ健康法について、幾つか触れておきたい。
まず、免疫力の60~70%は、腸が握っている。腸内環境を良好に保つことで免疫力を高める働きがある事は医学的にも証明されており、腸内環境の改善には、食物繊維と腸内細菌が重要だとされる。食物繊維は消化・吸収されずに小腸から大腸まで達する食品成分であり、整腸効果だけでなく、血糖値上昇の抑制、血液中のコレステロール濃度の低下などの機能もある。現在の食生活では日本人の平均食物繊維摂取量は1人あたり1日14gと言われており、1950年頃の20gに比べて減少している。食物繊維を効率的に摂取するためには、主食である白米を玄米に変えることがあげられる。また、豆類、キノコ類、藻類、果実類、野菜類にも食物繊維は多く含まれている。一方、腸内細菌については、善玉菌、悪玉菌、その中間の菌に分かれ、善玉菌の割合を増やすには生きた善玉菌である「プロバイオティクス」を摂取する方法と、腸内に存在する善玉菌を増やす作用のある「プレバイオティクス」を摂取する方法がある。生きた善玉菌が含まれている食品は、ヨーグルトや乳酸菌飲料、納豆、漬物などが挙げられるが、これらの菌は腸に住み着くことはないとされているため、毎日のように継続して接種することが望ましい。善玉菌を増やす作用のある食品成分にはオリゴ糖や食物繊維があり、野菜類、果物類、豆類などに含まれる。これらを踏まえて、免疫力を向上し健康に生活するためには食物繊維と腸内細菌を意識した食習慣が望ましい。
次に、睡眠について着目する。人類は人生の3分の1を眠って過ごすと言われており、睡眠が変わることの影響は大きいと考えたからである。平成28年社会生活基本調査では、日本人の睡眠時間は平均7時間40分で、過去20年間にわたり減少を続けている。睡眠不足により、日中の眠気や作業能率・注意力の低下などを招き、ミスの原因となりパフォーマンスも低下する。決まった時間にしっかりと快眠するためには、習慣が重要であり、それには運動や入浴、光も関係している。就寝の3時間前を目安に夕方から夜にかけて運動をするのが効果的であり、激しい運動は逆に睡眠を妨げることになるので負担が少ない有酸素運動が良いとされる。入浴に関しては、0.5度体温を上昇するだけでも快眠への効果は認められており、半身浴でも同様である。これも就寝前の急な体温上昇は逆効果であるため2~3時間前に入浴するのがベターだ。そして、光については体内時計の周期を調節してくれる働きがある。ヒトの体内時計の周期は24時間より長めにできており、そのままにしておけば生活が後ろ倒しになってしまう。起床直後の光は体内時計を早めるのに最も効果的で、起床後まずはカーテンを開けて光を浴びることが必要である。しかし、夜の室内の照明は体内時計を遅らせる力があるため、夜には暖色系の蛍光灯の方が良いとされる。これらの他にも快眠のためにできることは様々あるが、意識をすればすぐ変えられることだけでも生活習慣として取り入れてみると良いだろう。
新型コロナウイルスが蔓延している今、以前に比べて健康や免疫力向上を意識するようになった人は多いはずだ。是非とも生活習慣を見直し、より健康的な暮らしを手に入れる好機としたい。見直すべきは、食物繊維の摂取・腸内環境の改善を意識した食生活と快眠を意識した生活習慣の2つである。ワクチンの接種による感染予防だけでなく、国民ひとりひとりが自身の健康に対する意識を高く持ち生活習慣の改善を通じて、免疫力を高めることで、コロナのみならず高額医療患の罹患率削減にもつながるはずだ。その結果、国の医療費削減に繋がり、社会問題の解決の一歩となるのではないだろうか。
こちらのサイトは、今回取り上げた、食と睡眠の生活習慣の改善についてのみならず、生活習慣病予防や、飲酒・喫煙などについても記載されているので、健康について気になる方には、きっと参考になる。(https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/)
明日から一人でも多くの人の生活習慣が変わっていく事を望みたい。
雪うさぎ
<参考文献>
「平成30年度 国民医療費の概況」厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-iryohi/18/dl/kekka.pdf
「令和元年(2019)人口動態統計(確定数)の概況」厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/kakutei19/dl/10_h6.pdf
「平成26年版厚生労働白書 健康長寿社会の実現に向けて~健康・予防元年~(本文)」厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/14/dl/1-00.pdf
「栄養・食生活」eヘルスネット
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food
「休養・こころの健康」eヘルスネット
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart
「平成28年社会生活基本調査」総務庁統計局