PMI Consulting Co.,ltd.
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2007.07.31

デジタルルネッサンス、老舗カメラメーカー2社の戦い

 キヤノンが秋の商戦を前にして、8月20日にデジタルカメラの新型を一気に10機種近く発表した(その中でデジタル一眼レフは2機種)。07年上期でニコンに食われてしまったシェアの回復と、ニコンの新型が発表される前にぶつけておきたい思惑による発表だ。そして23日にはニコンから新型一眼レフ2機種の発表が行われた。まずはキヤノンが動き、ニコンがすかさず反撃した格好である(ちなみに20日は仏滅であり、観音を社名の由来とするキヤノンには珍しい。23日は大安だ)。実はキヤノンが新機種を発表した同日に、ソニーが新型の大型イメージセンサーのサンプル出荷の発表を行っている。部品の発表なのであまり目立たないが、このことは重要な意味を持っている。デジタルカメラは、より利益率の高いデジタル一眼レフに主戦場がうつり、その覇権をめぐっての戦争はキヤノンVSニコンの2強対決となっているが、実はその裏にいるソニーが勝敗に大きく影響を及ぼしているのである。

 今はキヤノンとニコンのシェアは拮抗しているが、今後ニコンがキヤノンと戦っていくうえで、決定的に不利な面が一つあり、それはすぐには埋められない大きなギャップだ。それはデジタルカメラの心臓部であるイメージセンサー(アナログカメラでいえばフィルムにあたる)を自社で製造できるか否かである。
 カメラのデジタル化が本格的に始まったのは90年代後半からだが、そんな老舗カメラメーカーの中で、最もうまくデジタルの波に乗ったメーカーはキヤノンである。早々にCCDやCMOSといったイメージセンサーを内製化し、いまでは他のメーカーでは開発できないような大型のセンサーも商品化している。一方の老舗であるニコンは、自社開発ではなくソニーなどの外部から調達する方法を選択した。

 心臓部である基幹部品を自社開発できないということは、2つの大きな問題をはらんでいる。1つ目はデジタルカメラの画質性能はイメージセンサーの能力で大半は決まってしまう。そのイメージセンサーのリリースは部品メーカーのロードマップに依存するため、自社の意図どおりの製品企画とマーケット展開が難しいこと、2つ目は基幹部品が部品メーカーから供給されるタイミングで他社も同じ部品を使うことが可能なので、同様の商品が同じタイミングでリリースされてしまうことである。

 現在、イメージセンサーを設計製造できる国内の企業は、キヤノン、ソニー、松下、富士フィルムなどである。イメージセンサーの開発は、サイズの拡大と画素数の増加、高感度、低ノイズ、ローコストに技術競争のポイントがある。コンパクトカメラと一眼レフでは搭載しているイメージセンサーのサイズが違う。コンパクトカメラはソニーも主力商品として販売しているので、小型サイズのイメージセンサーの技術開発には力を入れており、優秀なセンサーを開発出荷している。現にキヤノンもソニーから一部を調達している。しかし大型のイメージセンサーとなると、ソニーではデジタル一眼レフのシェアが低いためか、どうしても後回しになってしまっている感があり、キヤノンと比べると開発ペースが遅い。

 ソニーのイメージセンサーに依存しているニコンは、イメージセンサーの技術向上によって自社のカメラの性能をあげたくても、ソニーのCMOS開発を待つしかない(開発の提案はできるだろうが)。自社で開発製造ができるキヤノンは、自らの意図(マーケッティングの結果)で自在に商品化することができる。たとえばキヤノンはプロ向けに、35ミリフィルムと同サイズ(フルサイズ)のCMOSを積んだ商品をラインナップしているが、これは世界でもキヤノン1社にしか製造できない(2007年8月末現在)。キヤノンのフルサイズ一眼は2000万画素を超える高画質で、プロユースだけでなくハイエンドアマチュアの垂涎の機種になっている(価格も軽自動車が買えるほどすごいが)。ソニーがフルサイズセンサーを出荷していない現在は、ニコンはフルサイズの一眼レフを商品化したくても手が出せなかった。しかし23日にニコンは仕方なく(?)フルサイズのセンサーを自社で設計して外部で製造をはじめ、07年末にはフルサイズ一眼を発売することをリリースした(キヤノンの同サイズモデルのリリースから遅れること5年!)。

 もう1つの問題は、ソニーのCMOSは部品として全メーカーに供給される性質のものなので、どのカメラメーカーでも採用することができる。一眼レフのメーカーでいえば、ペンタックスにも同時に供給している。つまりソニーのCMOSが部品として出荷されたあとは、ソニー、ペンタックス、ニコンから同じような商品が同じ時期にリリースされることになるのである。目新しい技術でリードできるのはキヤノンだけで、その他のメーカーは同じセンサーを使って、カメラ本体の機能の追求とブランドイメージだけで勝負するしかないのである。
 キヤノンはイメージセンサーの製造ノウハウを蓄積してやりたい放題。ニコンはソニーに寄り添いながら、自らのカメラの機能を磨く方向に走っている。

 そんなニコンとキヤノンの分水嶺はどこにあったのだろうか?ポイントは経営者の洞察力と決断力である。キヤノンの経営者はデジタル幕開けの時期にCMOSの自社開発に踏み切った。おそらく全カメラメーカーも同様の選択を行うタイミングがあったはずだ(ニコンは数年前にイメージセンサーの自社設計と製造委託で生産を行ったが、すぐにやめてしまった。ソニーから調達するほうが性能もコストもよしという判断をしたのだろう)。自社製造には大きな設備投資を伴い、失敗すれば大変なリスクとなる。しかしキヤノンは決断した。CCDかCMOS、どちらに開発の軸足を置くかの選択も見誤らなかった(イメージセンサーは当初はCCDが主流だったが、今はCMOSに移行しつつある)。そういった、近未来を見定めて決断し、一度決断したら辛抱強くやり通すような"ブレない経営者"の存在があり、その期待に応えるだけの技術力の蓄積と、なによりあきらめなかった開発者がいたからこそ、マーケットをリードすることができるようになったのである。デジタル化の波は、先を見誤ると一気にマーケットを失ってしまうくらいの大きなインパクトがある。先を見据えて経営の舵を切る経営者の力(というか野性の勘なのかもしれないが)がものをいう時代なのである。

 第1ラウンドはキヤノンの技術的な圧勝に終わった。そろそろイメージセンサーの高画素化は収束し、高感度化やローノイズ化などの追求に振れはじめてきた。そして大事なのはコストだ。そうなると他社にも出荷し生産量の多いソニーが優位に立ってくる。なによりソニーの技術力が凄まじいのは周知の事実だ。ソニーにすり寄って大幅な投資をせず、マーケッティングによる消費者視点のラインナップとカメラの機能を磨き続けてきたニコンにも脈がでてくるかもしれない。キヤノンにあこがれながらも、じっと臥薪嘗胆の時を過ごし、勝負の時を待っていたと言えなくもない。ソニーと手を組んで共同歩調でキヤノンと戦うことを選んだ老舗ニコンは、カメラメーカーとしての確固たる地位を維持するために、次の一手をどう打ってくるか?またコニカミノルタのカメラ部門を傘下におさめ、自社でも一眼レフを作っているソニーの出方は?興味深く見ておこうと思う。キヤノンVSソニー連合、デジタル戦争は第2ラウンドに入った。

マンデー

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