2018.07.26
バーバリーの在庫焼却処分の問題の本質は何か?
日本で「バーバリー」と言えば、大半の人が、あの有名なチェック柄を想起できるのではないだろうか。
また、最近では、三陽商会の1件(日本での販売に関して、半世紀以上に亘って、バーバリーグループと独占的なライセンス契約を締結していたが、2015年6月に契約が終了した)を思い出す人も多いのではないだろうか。
そのアパレル世界大手のバーバリーが、「ブランド価値保全のために、約42億円の在庫を焼却処分した」ことが、話題になっている。事の発端は、バーバリーが5月15日に発表した2018年アニュアルレポート内(※1)で、「The cost of finished goods physically destroyed in the year was £28.6m (2017: £26.9m), including £10.4m of destruction for Beauty inventory.」と記載された売れ残り在庫処分方法に関して、突如英メディアによって批判される事態が、ここにきて発生したのだ。
メディアの批判内容としては、「資源の無駄」「もったいない」といったことが問題だとして取り上げているが、果たして本当にそうなのだろうか。バーバリーはここ数年、偽造品メーカーが「何にでもバーバリー・チェックを入れる」という状況に対して、ブランドの再建に取り組んでおり、今回、焼却処分した理由についても、盗難や商品の安売り、および廃棄しない商品が違法チャネルに出回ることで、知的財産やブランド価値が既存することを防ぐためだと説明している。この対応自体は、ブランド戦略として、決して間違ったものではないと考えられる。
ここで、もう少しバーバリーについて調べてみると、問題の本質は、「一向に無くならない過剰在庫」にあることが見えてくる。
というのも、今回の件に関しても、同社の広報は、「バーバリーは余剰在庫を最小限に抑えるための綿密なプロセスを持っている。製品を処分する必要がある場合は責任を持って処置し、廃棄物の軽減と再利用の方法を模索し続ける」と説明しているが、焼却在庫評価額は2016年度発表では1,880万ポンド、2017年度発表では2,690万ポンド、2018年度発表では2,860万ポンドと増え続けているのだ。このうち、化粧品在庫焼却額は1,040万ポンドと多くなっており、2017年に米化粧品ブランド「コティ」との新たなライセンス契約によって大量の香水を処分する必要が生じた一回限りのものとしているが、過去5年に処分された製品は9000万ポンドにまで上るというので、やはり焼却が多いことには変わりはない。
これは、どの程度のインパクトなのか。それは、通期業績を見てみると、よくわかる。バーバリーが発表した2017-18年通期業績は、純利益が2.4%と微増したものの、売上高は伸び悩んでいる。2018-19年度に関しては、店舗再編に伴う売場面積の縮小による減収を予想しており、今後2年間はこの傾向が続く見込みだという。そして、純利益は2億9400万ポンドであった。つまり、当該焼却処分のコストは、純利益の約10%相当にもあたるため、ブランド戦略の一環とは言え、決してこのまま無視できるものではないものなのである。
しかし、バーバリーが過剰在庫に無関心で、何も対策をしていないというわけではない。具体的には、同年度に以下のような取り組みを実施しており、一定の成果もあげているようだ。
・傷ついた衣類52tをジオテクスタイル(建材の一種)にリサイクル
・加工途中の生地51tを糸、繊維、自動車用断熱素材等にリサイクル
・主要事業所のあるイングランド北部の自社工場と配送センター及びロンドンの本社と店舗で埋立廃棄物をゼロに
・皮革素材の切れ端材について、同社関連のバーバリー財団と雑貨メーカーのElvis & Kresseが5年間のパートナーシップを結び、Elvis & Kresseに皮革切れ端材120t以上を提供するプロジェクトを推進
・焼却の際のエネルギーの再利用
但し、上記取り組みを見ると、既に生じた副次的な資源(生地や切れ端)に対するリサイクルばかりで、そもそもこのような資源が発生しないようにするという、過剰在庫に対する根本的な解決に、積極的に取り組んではいないように伺える。そして、バーバリーが目を向けるべきは、後者の話であることは自明の理である。問題の本質に目を向けない限りは、恐らく、今後も過剰在庫が解消されることはないだろう。
なお、過剰在庫の問題は、バーバリーに限った話ではなく、アパレル業界全体に通じるものである。一般的にアパレル業の在庫管理の特徴として、カラー・サイズ別に管理されることに加え、シーズンごとに目まぐるしく商品が入れ替わるためにライフサイクルが短く、商品点数が多いことが挙げられる。また、ファッションアイテムというのはシーズンごとのトレンドがある分、需要を予測しやすいと誰もが考えがちであるが、国や地域のカルチャーが大きく影響する分野でもあり、店舗ごとに売れ筋が違うということも往々にして起こりがちである。その結果、キャリー品(シーズン持越し品)として不良在庫化してしまう傾向にある。
このような業界に横たわる問題に対して、ユニクロやジーユーを展開するファーストリテイリング社は、デジタル戦略を掲げ、「作ったものを売る」 というスタンスから 「ユーザーの求めるものだけを作る」 というビジネススタイルへ変革しようとしている。具体的には、AI を駆使した情報プラットフォームを構築し、ユーザーの意見を集約・分析することで彼らが欲している商品を割り出し、その情報をもとに商品の企画から生産、販売を一気貫徹で行う。そのデータは工場や物流、店舗にも流れ、共有されることで在庫になってしまう商品をなくすことにも繋げていくというものだ。
バーバリーファンの一人としては、ブランド価値は保ちつつも、過剰在庫削減に向けた今後の様々な取組を期待したいものだ。
<出典>
※1:https://www.burberryplc.com/en/investors/annual-report.html
ノラ猫