2018.07.02
中国人の”爆買い”のこれから
Are you ready?
西武渋谷店で開店30分前に、中国でも高い人気を誇る木村拓哉さんが、従業員に呼びかけている映像が6月22日から映し出され始めた。映像の中で、「OK!」「准备好了」と、英語や中国語で答える従業員の姿が見られる。こちらは、中国語圏を中心とした成長途上のインバウンド市場に向けて、作られたものである。日本国内だけではなく、7月中旬から中国語圏主要動画サイト、SNS、広州白雲国際空港、香港そごうの大型ビジョンなどでも放映する。
現在、メディアを中心に、「インバウンド拡大」の話があちこちで盛り上がっている。実際、銀座、新宿、渋谷等に出かけるたびに、中国人をはじめ、外国人観光客をよく見かける。その中で、中国人がまさに西武百貨店やビックカメラといった量販店の手袋の荷物を大量にぶら下げており、いわゆる「爆買い」の現場を目にすることができる。
2015年から「爆買い」がユーキャン新語大賞にノミネートされ、世間一般で認知された。ウィキペディアで調べたところ、「爆買い」は”主に来日した中国人観光客が大量に商品を購買する行為を指し、2015年2月の春節休暇に中国人観光客が日本を訪れ高額商品から日用品まで様々な商品を大量に買い込む様子を「爆買い」と表現して、多くの日本メディアが取り上げた“と記載してある。
ただ、2016年の「爆買い」の実態を見てみると、訪日中国人消費総額は増えていたが、1人当たりの消費額は前年を割り込んだ。「爆買い」が今後失速していくだろうとの記事も見かけたりする。では、2017年実績に踏まえながら、今後「爆買い」が失速していくのだろうかをみてみたい。爆買いの要素である、「訪日中国人数」、「1人当たり消費金額」の2つから見てみよう。
まず、「訪日中国人数」はこれからも増えていくようだ。観光庁平成30年3月20日に発表した「訪日外国人消費動向調査」①平成29年年間値(確報)によると、日本を訪れた外国人客(インバウンド)の数は平成29年に2,869万人と前年比19.3%増えて、過去最高を更新した。その中、中国・台湾・香港だけで1,415万人で、49.3%を占めている。
さらに、今後もより中国人観光客が日本に行きやすいように、外務省が平成29年4月21日に、5月8日から中国人のビザの発給要件を緩和すると発表した。日本は欧米等と違い、中国の隣国であり、距離が近く、中国人観光客にとって、魅力的な観光先であり続けているようだ。2017年10月5日、株式会社日本政策投資銀行がアジア・欧米豪12地域の海外旅行経験者を対象に行われた調査の結果、「DBJ・JTBF アジア・欧米豪 訪日外国人旅行者の意向調査(平成29年版)」を発表し、日本旅行の人気は依然トップの座にある。
もう一つの要素である、「1人当たり消費金額」はどうだろうか。まず中国人観光客の全体総数の動向から見ると、消費金額は前年より増えている。「訪日外国人消費動向調査平成29年年間値(確報)」によると、平成29年訪日旅行消費額総額、中国が16,947億円で(前年比+14.9%)、台湾が5,744(前年比+9.5%)、香港が3,416億円(前年比+15.9%)だった。
ただし、全体総数が増えているにも関わらず、1人当たりの平均旅行消費単価が失速してきているようだ。三井住友銀行コーポレート・アドバイザリー本部 企業調査部が2018年5月に発表した「訪日外国人旅行者(インバウンド)の動向」②の調査結果を見たところ、平均旅行消費単価が、2016年~2017年で、たった1%の増加にとどまっている。
では、インバウンドは拡大傾向にある中で、1人当たりの消費金額が伸び悩んでいるのはなぜだろうか。
私が考えるにその要因は主に3つあるのではないかと思う。
1つは、円高の影響で、2つは越境ECの発達で、3つは中国関税の強化である。
1つ目は言うまでもないが、2つ目の越境ECについて、中国で買えない日本商品が日本と変わらない金額で中国の中で買え、また家まで届くとのことで、越境ECでの買い物が発達。以下は、2017年12月に日本貿易振興機構(ジェトロ)が発表された「中国の消費者の日本製品等意識調査」④から抜粋したものである。最も購入されている化粧品や医薬品も、越境ECでの購入が年々増えている。
3つ目の関税強化に関して、平成28年4月から中国政府は旅行者が海外で購入したものを国内に持ち込む際の関税を引き上げた。主な引き上げは以下の通りである。
・酒 50%→60%
・化粧品 50%→60%
・高級時計 30%→60%
・食品 10%→15%
・衣類 20%→30%
関税の引き上げにより、日本に行っても安く購入できなくなったので、爆買いが減少したと考えられる。円高影響、関税の引き上げがなくならない限り、越境ECのさらなる発達により、爆買いがさらに失速していくと言えるだろう。
日本国内人口減少により、中国をはじめ、今後もインバウンド需要の取り込みが重要な課題になっている。電気製品や化粧品、医薬品の消費が以上上げた3つの理由(円高、関税の引き上げ、ECの発達)により、失速していくことに対して、メーカーやこれらの商品を扱う量販店は今後どんな手を打っていくべきだろうか。
1つ言えるのは、「商品そのモノ」だけで提供できる価値は限られている。「モノ」の実用価値のうえに、どんな価値を付加とすることで全体価値が上がるかはメーカーが考えないといけないことである。中国人の日本国内での電気製品や化粧品などの「モノ」を買う爆買い行為(「モノ消費」)と違い、最近日本名所への観光、日本独特文化(着物、さくら)の体験等、いわゆる「コト」を通して消費する行為(「コト消費」)による消費金額が増えているようだ。
2018年2月に公表された、中国の検索エンジン最大手の日本法人バイドゥ株式会社(本社東京、英語名:Baidu Japan Inc.)が発表した訪日中国人観光客の旅行実態に関するアンケート調査結果③をみたところ、訪日旅行の目的(複数選択可)は「観光名所に行く」が76%で最多、次に「日本の料理・食事を味わう」(39%)、「買い物」(38%)が続く。ついに、観光が買い物を上回った。同「訪日外国人旅行者(インバウンド)の動向」の訪日目的、2012~2017年の変更でも読めとれるように、和食を食べることや買い物がすでにほぼ飽和状態である。「観光名所に行く」が76%にも上って、こちらは日本に行かないと、体験できないことだというのが特徴だ。
今後まだ拡大を続ける中国人観光客数に対しては、メーカーや量販店が観光名所といかに連携することが、「モノ消費」、また「コト消費」による「モノ消費」を促すことになることが期待できるだろう。
また、「日本に行かないと、体験できない」という視点で考えたときに、「日本」にしかないものという強みをいかにアピールするかが大事である。中国人に好まれるように、例えば食品の味を変えたりすることも増えていて、中国人の私から見れば、ただ不思議でしょうがない。自分なら、海外に行って、自国と変わらないものを買おうと思わない。
実際に「コト」消費による「モノ」消費の増加の実例を見てみたいと思う。1つは、商店街の活性化。商店街は買い物だけでなく、日本の歴史や伝統文化が凝縮された空間でもある。訪日客向けに着物で日本文化を体験するアクティビティーや博物館と連携した文化イベントなど、地域資源とマッチングした“コト消費”の取り組みも積極的に支援している。2つ目は、理美容機器などの大手メーカー、タカラベルモントのショールーム「TB-SQUARE(ティー・ビー・スクエア)」(大阪市中央区)の体験による機材販売の事例。2016年9月オープン以来、約2万3500人が訪れ、そのうち外国人は千人近く。海外の取引先企業による紹介も多く、見学を機に同社と契約するケースもあるという。「機材の品質もマッサージの技術も素晴らしい」と感心の声があるが、機材は海外で購入できるにしても、素晴らしいマッサージ技術のサービスを受けられるのは日本に行かないといけない。
昔からの日本文化、素晴らしい技術やサービス以外にも、日本の「強み」がまだまだたくさんあるだろう。インバウンドが今後まだ増加していき、「日本」独特の強みと自社商品・サービスの強みをいかに生かすかを今一度考えることが大事かもしれない。
http://www.mlit.go.jp/common/001038052.pdf
②「訪日外国人旅行者(インバウンド)の動向」:
http://www.smbc.co.jp/hojin/report/investigationlecture/resources/pdf/3_00_CRSDReport061.pdf
③「訪日中国人観光客の旅行実態」:
http://www.lisalisa50.com/research20180321_18.html
④「中国の消費者の日本製品等意識調査」:https://www.jetro.go.jp/news/releases/2017/9c767c469d4a6467.html
⑤「DBJ・JTBF アジア・欧米豪 訪日外国人旅行者の意向調査(平成29年版)」:https://www.dbj.jp/ja/topics/dbj_news/2017/html/0000028501.html
⑥「訪日中国人観光客の爆買いの動向と今後について」:
http://www3.keizaireport.com/report.php/RID/297648/
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