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2018.04.09

働き方改革におけるコミュニケーション量の重要性

「働き方改革」。もはや日本では誰もが耳慣れた言葉となった。

2016年9月からは安倍総理が自ら議長となり「働き方改革実現会議」を展開。日本政府は労働人口の減少や長時間労働に歯止めをかけ生産性向上を目指している。

この働き方改革が語られる文脈では、特に長時間残業の是正が取り上げられることが多い。これは2015年末に某大手企業が、100時間を超える長時間残業を理由に新入社員が自殺したことで、書類送検された事件がセンセーショナルに取り上げられたことが、世間に影響を与えていることは間違いない。

日本生命保険等が2017年8月に行った調査(※1)によると、労働時間短縮に取り組んでいる企業は約6割強(うち大企業は約9割)に上っており、今や多くの企業が長時間残業の撲滅に取り組み、ノー残業デイの導入やIT活用による業務効率化などを進めている。ハードワークで競合と差別化を図り会社を成長させたことでも有名な、あの日本電産も2020年には残業ゼロの企業集団になるとコミットしている。このように、働き方改革の主眼として、長時間残業の削減を重きに置く企業は多い。

しかし、長時間残業の削減は働き方改革の目的から考えると一つの手段に過ぎない。

働き方改革の目的は、日本経済再生のために付加価値生産性を向上させ、労働参加率を向上させることである。 その目的を鑑みると、企業において組織の生産性が高まり組織価値が向上するという雇用者側のメリットと、自身の理想的なワークライフバランスが実現するという被雇用者側のメリットが同時にある状態、つまり双方にWin-Winの関係を実現することが、働き方改革成功のポイントとなる。

このポイントを実現するためには、雇用者と被雇用者間、また被雇用者の中でも上司部下間、同僚間等において、密なコミュニケーションを取りお互いの状態を共有しながら、それぞれのメリット実現へ進む必要がある。

効果的かつ効率的にWin-Winの関係を実現するためには、コミュニケーションの質的側面はもちろんのこと、量的側面を重要視するべきである。

何故なら、コミュニケーション量を上げることで互いに意思疎通をする際の障壁が低くなり、 結果として、雇用者側にとっては、労働生産性向上に向けた業務連携が活性化する一方、被雇用者側にとってもより働きやすい職場が実現されるというプラスの効果が働くのである。

この主張について、事例を交えながら深堀していこう。

アメリカの心理学者ロバート・ボレスワフ・ザイアンスが、1968年に論文で発表し有名になった「単純接触効果」というものがある。これは、繰り返し同じものや人に接すると、次第にその対象に対して好感を持ち、印象が良くなるという効果である。例えば、コンビニで棚から無意識に選んだつもりのジュースも、実は良く目にしているCMの商品であることが多いのは、この効果によるものだ。 つまり、興味がない(むしろ嫌い)な人でも、何度も目にすることや、会話をしていくうちに、その対象に対して徐々に好感を持つようになる。人は敢えて嫌いな人に積極的に話しかけようとはしない。逆に、好感を持つ上司や先輩であれば、積極的にコミュニケーションの機会を作ろうとするものだ。

また、Googleでは、「TGIF(Thanks Google It’s Fridayの略)」と呼ばれる全社MTGが、毎週金曜日の朝(日本時間)に世界中の社員間で行われる。今や約60,000人の社員を抱えるGoogleでさえも、経営と社員の接点を仕組みとして毎週設けているのである。もちろん経営からの一方的なメッセージだけでなく、社員からもGoogleの経営層へ質疑ができる時間もあるため、社員は楽しみに参加するそうだ。また、同社では、趣味の集まりでもある「部活」が活発化しているため、部活動の場に留まらず職場においても部署や上下の垣根なく気軽にコミュニケーションが取れる雰囲気が醸成されている。

更に、ハーバードビジネススクールのTsedal B. Neeleyらの調査(※2)によると、一見すると過剰に見えるメールや対面でのコミュニケーションが、業務を円滑に早く完了させる原因であると結論づけている。この調査では、意図的にコミュニケーションを多く取る管理者の方が、そうでない管理者より業務を迅速かつ円滑に進めることを発見している。

これらの事例における活動は、我々が現在抱えている業務を完了させるのには直接的に有効なコミュニケーションでないようにも見える。

しかしながら、会社のトップがどのような考えで日々活動しているかを従業員が知ることや、自身に気兼ねなく相談できる人間が多いこと、また、自分の状態を周囲が細やかに察知していることなどは、長期的には組織全体の生産性向上に大きく貢献することを証明しているのではないだろうか。

翻って見ると、長時間残業の削減は、コミュニケーションの量的側面を阻害している可能性が大きく、その結果働き方改革の真の目的達成から遠ざかっているように思える。

先日新聞でノー残業デイが導入された結果「会社での同僚との会話が減ってしまい、社内が殺伐としている」という社員のインタビューが掲載された記事を見かけた。

一見するとノー残業デイが設定された場合、早く帰れる日が増えるため被雇用者にとっては喜ばしいことに思える。しかしながら、その施策により根本的に仕事量が減るわけではないのは明白だ。業務時間内に与えられた業務を完了させるために、業務に不要な時間を削ることを意識する。例えば、今まで仲間と一緒に他愛もない会話に花を咲かせていた60分のランチタイムを、デスクでの一人ランチに変えることで時間を確保する必要もあるかもしれない。あるいは自分の業務範囲とは異なる場所で困っている同僚や後輩を見かけたとしても、火の粉が自分にかからないように見て見ないふりをしてしまうことが増えるかもしれない。

もちろん業務を行う上で、無駄はあるべきではない。徹底した業務効率化を行い、無駄を省き生産性を上げることは当然の話であるが、上記のようにコミュニケーションの機会が減った結果、社内における接点が少なくなっていくような状態が蔓延しては、先述したWin-Winの関係からは遠ざかっていくように思える。

「いかなる問題も、それを創り出した時と同じ意識では解決することはできない。」

これは、かの有名なアインシュタインの言葉である。

働き方改革を成功に導くためには、単に目の前の残業時間削減にのみ目を向けるのではなく、日々の組織のコミュニケーション、その質だけでなく、量にも意識を向けて取り組むことが必要だ。

思えば幼いころから、挨拶が大切だと教えられてきたが、その理由については意外にも語られてない気がする。日々の挨拶はコミュニケーション量を上げる最大のツールである。時間や金銭的コストをかけずとも実践できるコミュニケーションは多いはずだ。

まずは自分がすぐに実践できることに着手するところから、日本の「改革」は始まっている。

参考

※1:ニッセイ景況アンケート調査結果-2017年度調査(2017)

※2:It’s Not Nagging: Why Persistent, Redundant Communication Works(2011) https://hbswk.hbs.edu/item/its-not-nagging-why-persistent-redundant-communication-works

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