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2017.06.29

原発ビジネスの未来はどうなるのか

 今年の3月、東芝傘下の米原子力大手ウエスチングハウス(WH)は、米連邦破産法11条の適用を申請した。建設工事の大幅遅延のほか、原子力建設サービス会社の買収やのれんの減損が主な要因とされている。WHが買収した米原子力サービス会社ストーン&ウェブスター(S&W)ののれん代はもともと100億円程度と見積もっていたが、昨年末にS&Wの正味の資産価値を再評価したところ数千億円規模の損失が判明、債務超過は7000億円規模となることが明らかになった。 親会社である東芝は米国の原子力事業で7166億円もの巨額損失を計上し、一気に経営危機に陥った。債務超過を避けるために、すでに売却してしまった東芝メディカルだけではなく、シェアトップの東芝テック、稼ぎ頭の半導体事業も分社化して同社の株式の切り売りを検討している。    現在、先進国の原子炉メーカーは東芝含め7社が存在するが、福島第一原子力発電所の炉心溶融事故から世界的に脱原子力の選択が進む中、原発ビジネスの存続は可能なのであろうか。  かつて原子力発電はエネルギーの安定供給、環境保全、経済性(1kWhあたりのコスト)から優れた重要な電源と見なされ、日本政府も、中長期的な基幹エネルギーとして積極的に推進し、2030年までに、14 基以上の原子力発電所の新増設を行うという目標も掲げられていた。しかし、福島第一事故を受け、原子力発電の推進を含むそれまでの見方が一変した。福島第一原子力発電所の廃炉や賠償などの費用総額は約21兆円にのぼるとの発表がなされ、もはや事故のハイリスクを考慮すると、原発は決してコストが安いとは言えない。独シーメンスも原発事業からの撤退を決めたほか、GEは原発事業への積極的な投資には慎重な姿勢を明らかにしている。  また、第一原発事故以降、安全対策の規制基準が厳しくなり、工期の長期化など、建設コストの増加を招いている。WHの巨額損失の要因にもなっており、仏アレバ社は原発の建設コストの上昇を背景に経営が悪化し、フランス政府が救済に乗り出す事態となっている。  各国の方針でも脱原発の動きが見て取れる。福島第一原発の事故を契機に脱原発に舵をきったドイツ、今年5月には国民投票で脱原発を決めたスイスなどに加え、最近はアジアでも脱原発の動きが出始めた。日本が受注していたベトナムでの原発計画中止や、今年6月には原発保有数25基と世界6位の韓国が脱原発を宣言し、6基の原発を抱える台湾は1月、25年までの全原発の運転停止を明記した電気事業法改正案を可決している。日本は2009年以降原発の新設は行っていない。建設中が3件あるが、工事が凍結している原発については、原子力規制委員会の安全審査の長期化、地元住民の反対などの問題がある。原子力委員会が許可を出しても、住民の厳しい公聴会や住民訴訟を乗り切って竣工までいける可能性は低い。 1990年から2015年まで世界の原発の数は約440基と横ばいであり(1)、建設計画中の原発の数は14年1月時で172件、16年1月時では164件と減少傾向にある(2)。シェールガス開発と原油・ガス価格の低下や、再生可能エネルギーの技術の進展、コスト低下に伴い、原子力発電のコスト競争力が低下していることも要因だ。 ソーラーパワー・ヨーロッパ(旧欧州太陽光発電産業協会)は、2016年の世界の太陽光発電設備の新規導入量が前年比49.6%増の7660万キロワットと2年連続で過去最高を更新したと発表している等、電源の再生可能エネルギーへのシフトが進んでいる。課題であった電力の安定供給の壁も、蓄電技術やスマートグリットの進歩により今後更に再生可能エネルギーの導入が加速し、原発ビジネスの衰退はもはや避けられないであろう。   原発の新設件数は減少するため、残されているのは廃炉ビジネスしかないだろう。国内では問題となっている福島第一原子力発電所の廃炉をはじめ、1970~80年代に稼働した原発が相次ぎ運転期間の期限を迎え、本格的な廃炉時代に入る。その市場規模は3兆円程度と言われている。日本にある58基の原発の廃炉を30年~50年かけて行えば、原子力事業も継続的に収益を上げられ、海外の廃炉市場への展開も見込める。 しかし、廃炉ビジネスには重要な課題が3つある。一つ目は、日本は現在まで研究炉の廃炉は経験しているが、商業用原子力発電所の廃炉の経験は無い。未経験の商業用原子力発電所の廃炉を安全かつ効率的に進めるため、安全な解体技術の導入・開発を行い、具体的な廃炉の考え方・手順を策定し、ガイドラインを構築する必要がある。 次に、廃炉に係る知見を有する人材の確保・育成が必要だ。廃炉は1基当たり20年~30年の長期にわたる作業が見込まれ、今後、廃炉判断が適宜実施されていくことを考慮すれば、蓄積した技術や知見が確実に伝承される仕組みを構築し、廃炉作業全体について安全にマネジメントできる人材を継続的に確保することが重要である。研究炉等の大型教育・研究施設の維持や海外人材の育成検討、原子力政策を明確に示し、魅力ある研究開発プロジェクトの実施が必要だ。 最大の課題は使用済み核燃料の処分である。原発から出る使用済み核燃料を最終的にどうするのか。これは原発を利用する各国共通の大きな悩みである。発生した使用済燃料は、燃料として再利用する核種を取り出すための再処理や、放射性廃棄物として処分するまでの一定期間、使用済燃料プールや乾式キャスクに貯蔵して管理する必要がある。六ヶ所村の再処理工場が本格稼働してない日本では、ほとんどが再処理されずに貯蔵されたままである。その量は合計1万7千トンを超え、貯蔵能力は限界に近づきつつある。世界初の最終処分場として選定されたフィンランドの「オンカロ」は2020年から、地下420メートルを超えたところに、再処理を行わない高レベル放射性廃棄物を10万年間という途方もない期間埋めていく方針をとっている。日本では、再処理後に残る放射能レベルの高い廃液をガラスに混ぜて固めたガラス固化体にし、地下300メートル以上の深い岩盤に半永久的に隔離する方法を検討中である。現在の科学では、数十万年の安全を証明できないため、300年程度を上限に「長期貯蔵」の政策に切り替えるべきでだと考えるが、いずれにせよ地中での保管が必要になる。 廃炉ビジネスを始まるにはまず、上記の課題を克服していく必要があり、産学官が一体となった対策が必要になるだろう。 (参考) (1)日経新聞2017年4月9日 参照 (2)東洋経済2017/4/22号 参照

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