2008.02.13
禁煙とダイエット、その成功の秘訣は?
私は禁煙とダイエットのどちらも成功した一人である。おそらくは、禁煙かダイエットを成功させたいと思っている方は非常に多いだろう。そんな方々に少しでも参考になればと思い、成功の秘訣をご紹介しようと思う。もちろん、「それは秘訣でも何でもない」といったご批判を頂く事は承知の上だ。
さて、その秘訣とは「ありたい自分を決めること」である。その意味を自らの経験と、神経経済学的視点にも手助けをもらいながら紹介したい。
私の場合、禁煙は2000年の元旦と決めていた。禁煙のきっかけは単純だが、趣味であったスポーツの最中に「きついなぁ」と感じる瞬間があったからだ。タバコをやめる事でもう少し楽になるのでは?できれば一生楽しみたいと思っていたので、ふと禁煙が頭によぎったことからだった。それからというもの「なぜ自分は煙草を吸うのだろう?」と考える事がしばしばあった。しかし、どんなに考えてもそこに答えは出てこない日々が続いた。そこで、禁煙の成功と失敗を繰り返す人の話を聞いてみたり、禁煙に関する本も手に取ったりと、多くの情報を得た結果「煙草は単なるニコチン中毒症であって、自分もその一人にすぎない」という答えにたどり着いた。中毒ならば、それ相応の準備が必要だと考え、最初に自分がしたことは「やめようと思う理由は何なのか、やめた後のメリットはどの程度か」など、短期的に得られるメリットにばかり思いを巡らせていた。しかし、どこかでそんな事を考えても自分は煙草を止められないのではないか?という自分自身への不信ともいえる感覚がつきまとった。
それから暫くは自分への不信感との戦いが続くのだが、あるときから煙草をやめている自分を想像していた。実はこれが非常に重要な心の準備であったことを後で気づくことになる。そして、最終的には「ありたい自分」と「煙草を吸わない自分」が重なったことで私の準備はすべて整った。そこで、この中毒症状との別れの日を「2000年の元旦」と決心し、その日がくるまでは思う存分煙草を楽しむことにした。2000年の1月2日から、今までのヘビースモーカーが完全なるノンスモーカーに変身していた。
72.5Kg、スポーツジムのデジタル表示は、まさに冷酷にその数字を示していた。「ここまで来たか、まずい!」。帰宅後、自宅のクローゼットで最近活躍の場を失った、リーバイス501(大学1年の春に買った16年モノ)にそろりと足を入れると、ファスナーが見事なV字開脚を披露した。脂肪をたっぷりと抱えた下腹が幅を利かせている。このショックも相まって、「ありたい自分」の姿に向けて急速にスイッチが入った。501をもう一度はきたい!否、はいている自分がそこにいる。
そして、本能的に考えたのは急激なダイエットではなく長期プランにしようと決めていた。リバウンドの恐ろしさを目の当たりにしてきたことがそうさせたのだろう。まずは、生活習慣そのものからの見直しに取りかかり、今回は禁煙の時と違い、徹底的にメリットを追求した結果、当時のプランはだいたい、次のようなものになった。「午前3時:起床。起き上がるや否やPCに向き合って仕事を片付ける。午前5時:足腰を鍛えつつ有酸素運動を取りいれるためにウォーキングに出発。このウォーキングばかりは、どうやったら持続できるかいろいろ考えた末、自分の性分を逆利用することにした。元来信心深い性格なので、片道30分かかる神社に詣で、100日連続毎日必ずウォーキングしてお参りすることを誓った。もう約束は守るしかない。これ以外にも、質の悪い油分の摂取を避けた。半年かけて蓄積された脂肪を燃やすには、それなりの時間が必要だと考えたのだが、100日後には64キロまで到達した。もともと目標は66キロだったので、多少行き過ぎた。しかし、100日も継続すると、新しい生活習慣として定着するもので、今でも早起きの生活スタイルは続いている。時折ウォーキングもしている。おかげで、今も66キロ台をキープしている。
ダイエットの勝因も「ありたい自分」を決めたことにあったと思っている。
ここまでは、単なる自慢話だったのでお聞き苦しい思いをさせてしまったかもしれない。実は、この経験があってからというもの、自分自身の意思決定と行動変化ということに興味を持つようになった。
最近、人間の意思決定の仕組みを脳科学的アプローチによって解明しようとする試みがあると聞いた。そこでは、経済学者が自然科学の専門誌に、あるいは脳科学者が経済学の専門誌に論文を発表する活動として現われているそうだ。中でも神経経済学(ニューロエコノミクス)は近年注目を浴びている分野の一つだ。簡単に言うと行動科学的には解明できない人間の意思決定の仕組みを、脳科学的アプローチによって解明する研究だ。これまでの経済学の研究領域では解明してこなかった「脳の意思決定のプロセス」を明らかにした学際的な研究領域でもある。具体的には、人が何らかの経済的な意思決定を行う時に、脳のどの部分が働いているのかを理解しようとしている。経済学は「人間は合理的に行動するもの」というばかげた前提条件を伴ってきた。私たちが常に合理的に生活を営んでいないことは誰もがよく知っているのだが、それを否定した考えに基づいている。神経経済学は、人間の意思決定や行動が脳内における情報処理の結果によるものであるとする立場から出発するため、人間の非合理的行動についても、脳の働きや特性によって起こっているはずだと考える。つまり、人は先の長い未来よりも、今現在を優先することや、利益よりも感情を重視したりする人間の特性などが、脳の仕組みに起因するという見方だ。
人は何故、未来よりも現在に価値をおいた意思決定をするのか、少し考えれば明らかに先々後悔するような意思決定をするのか、このこと自体が神経経済学の研究領域になっている。実験では、「すぐに手に入る小さい利益」と、「長い将来に手に入る大きな利益」のどちらが良いかを被験者に選択させ、脳細胞のどの部位が働くかを調べている。細かな脳の働きについては省略するが、その結果から、すぐに手に入る小さな利益は、情動的な反応を促す事がわかっているらしい。大好きなお菓子を食べてダイエットに失敗するのも、どうでもいいと思っていた洋服を衝動買いして後悔するのもこれが背景にあるようだ。
なるほど自分が禁煙とダイエットに成功したのは「未来に手に入る大きな利益」を選択したからだったからか!と思いたいところだが、それだけでは何かが足りないような気もする。それが何なのかはわからないが、これからも自分自身で考え続けたいテーマであるし、更に神経経済学の研究領域には大いに期待を寄せて注目していきたい。
私が経験から学んだ禁煙とダイエットの成功の秘訣は、意外な事に神経経済学との関連性がありそうだ。短期的な衝動や情動に駆られる行動ではなく、将来の大きな利益を実感できるまで脳を働かせることができればいいようだ。その働きを引き出す決め手となるのが、「ありたい自分を決めること」だ。別の云い方をすると「決められる自分でいることを決めること」だとも言える。(哲学的なのか、屁理屈なのか微妙な言い回しだが、私の感覚には合っている)どんなことも、自分の意思決定なしには実現しないことは真理だろう。「決められる自分でいることを決めること」ができれば、準備は整ったと言える。そこから行動変化が始まる。禁煙やダイエットを成功させたいと思っている皆さんにお伝えしたいことは、この事に尽きる。
「私も痩せたい!」と言う人は多い。そんな人に「痩せるために何をしているの?」と問い質せば「えーっと・・・」となる。こういう人たちは、妄想ばかりで、何も決めていない。ありたい自分を決めて、そこから自分をみつめれば、自ずと答えが見えてくる。そうなれば、もうこっちのもの、行動せずにはいられなくなるはず。あとは、自分の性質を利用して持続する工夫を凝らせば、誰もがありたい自分になっている!