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2017.02.06

宇宙ビジネス時代へ

 1955年に東大の糸川英夫博士が手掛けた長さ30センチ、達成高度600mの「ペンシルロケット」から約60年、2015年には日本初となる海外商業衛星を載せ、打ち上げに成功した主力ロケット「H2A」29号機は3万4000キロメートルに到達。ペンシルロケットから5万6500倍という飛躍的な進歩を遂げた。日本では宇宙開発に年間約3200億円前後の予算が投入されている。国策としてこれだけの予算をかける必要があると見なされている理由は何であろうか。主要な理由の一つとして、宇宙開発は日本の外交・安全保障にとって多くの点で重要な役割を担っている。宇宙開発の最先端技術の優劣は技術力や産業力における国際優位を示すだけではなく、軍事技術の潜在力でもあるからである。日本は専守防衛を国是としているので弾道ミサイルを持たないが、ロケットの打ち上げ能力は高い軍事能力を示すことになる。また、高度な人工衛星技術を保持していれば、脅威と見なされるものを観測、ミサイル攻撃を早期に補足、対応する潜在能力を表す。北朝鮮の脅威が増し、日本が軍民両用技術である宇宙技術において大きく後れをとることは避けたい背景がある。 一方、近年宇宙ビジネスが注目を集めている。宇宙ビジネスとは人工衛星を製造し、それを宇宙に輸送するロケットの製造や打ち上げサービス等の提供である。世界の宇宙関連ベンチャーへの投資は2015年、前年の約5億ドルから約23億ドルへと膨れ上がり、2016年には約27億ドル以上に達しており、これまでプレイヤーが限られた特殊な分野が大きく変わろうとしている。その背景には宇宙産業の構造変化がある。米国政府は2006年から、ロケットによる国際宇宙ステーションへの物質輸送を広く民間に開放した。日本においても、安倍政権がGDP600兆円に向けて宇宙分野を柱の一つとすると明言するなど、各国政府の方針転換や法整備により事業化ハードルが下がり、さらにスマホやタブレットの世界的な普及で、CPU、センサーといった部品の価格が下落し、ロケットの低コスト化が可能となったことも要因であろう。 宇宙産業のマーケットは大きく分けて、ロケット打ち上げサービス、低中軌道衛星(地球観測)および、静止衛星(通信放送)の3つの市場がある。宇宙ビジネスを活性化させるきっかけとなったのは、ロケットによる輸送の分野だ。昨年火星に人類を運ぶ惑星間輸送システムの構築を宣言した、スペースXなどの新興ロケット会社が登場し、価格破壊をおこした。これに促されて台頭し始めたのが衛星分野である。地上を観測する通信衛星といった従来の衛星だけでなく、小惑星が含有する資源を探査したり、人工流れ星を生み出したりする衛星まで登場し始めた。その結果、関連ビジネスも急増・多様化している。衛星で撮影した画像のビッグデータを自動解析する会社が現れたり、GPS情報を活用してマラソンのコーチングに生かしたり宇宙の活用が身近になる時代に突入している。  宇宙開発・ビジネスの中心は圧倒的にアメリカが占めているが、人・物・金を集め、突き進む米国の宇宙関連企業に共通するのは、開発者視点ではなく、宇宙を利用する顧客を意識したモノ作りやサービスを志向していることだ。それが「管から民」への構造変化を加速させ新市場の拡大を促している。では、日本勢はどうだろうか。昨年JAXAが発表した世界最小の小型衛星用ロケットにはじまり、小型軽量化を可能にするものつくり力を生かした軽薄短小で存在感を発揮している。しかし、日本の宇宙関連事業の売上総額約3500億円の9割以上を官需が占めており、まだまだ自立した産業とはいえない。これは宇宙ビジネスには実績が重要であり、宇宙開発後発国の日本では歴史が浅く実績を示せないため国際商戦で不利になっている現状がある。 企業からすると、国際競争力が不十分な間はJAXAが研究開発用の人工衛星をもっと発注する、ないしは政府が直接実用衛星を発注しなければ、ロケット打ち上げも人工衛星の製造も需要が生まれない。その結果企業内のエキスパートも減り、技術力も維持できなくなってしまう。そこで海外に売り込むことが望まれるが、海外において受注するための一つの条件として、人工衛星の打ち上げ、運用における実績を積み重ねて信頼製を実証していかねばならないことから国際競争力がつくまでは政府が公益事業として一定数発注することで民間企業を支えていかねばならないのである。 日本が宇宙ビジネスを「管から民へ」速やかに移行させ、大企業とベンチャーによる宇宙利用、商業の軌道に乗せるには、国による事業環境整備が重要である。16年11月には「宇宙関連2法案」が日本でもようやく成立した。商業ロケットが事故をおこした際に、加入する保険の規模を上回る部分を国が補償するなど、企業が宇宙開発に取り組みやすくなるルールを定めている。2008年の宇宙基本法にはじまり、法整備が徐々に進み、参入障壁は下がってきているが、米国では昨年、宇宙で採掘した資源の利用を企業に認める法案を可決するなど、先をいっている。日本も継続した事業環境整備を行い、大手企業が失敗を恐れず、ベンチャーとの共同プロジェクトをはじめられる環境を作ることが必要である。  宇宙開発は、宇宙太陽光発電や地球観測衛星による資源探査等のエネルギー・資源分野における貢献、宇宙からの観測を活用した農業分野による貢献、地球温暖化による災害の予測など、人類のこれから直面する問題に対し重要な役割をも担う可能性が高く、更なる飛躍的な発展を期待したい。

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