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2014.07.22

インバウンド増加に見るゲストハウスの今後

日本に旅行してくる外国人旅行者(インバウンド)は2013年時点で1,036万人から2020年時点で2,000万人を超えると日本政府観光局(JNTO)は予測している。日本に来る外国人旅行者が倍近くに増えるという予測である。それに伴い昨今では、ホテル業界や旅行会社などの直接旅行に関係する業態を始め、消費財メーカーなどの企業も対応を考え、対策を講じるべく動いている。
中でも、住宅産業に眼を移してみると、人口減少の流れの中で住宅のストック数は増加を続けており、国土交通省も2008年8月に発表した「国土交通政策のこれからの方向性(重点政策)」の中で、「住宅取得の支援、リフォーム等による良質な住宅の整備、既存住宅流通の活性化など、住宅投資の促進と豊かな住生活の実現」などを掲げているように、「つくっては壊す」フロー型の社会から、「いいものを作って、きちんと手入れをして、長く大切に使う」ストック型社会への転換を目指す方向性を打ち出した。

 そのようなインバウンド増加とストック型社会への転換という大きな時代の動きの中で、どのような波紋が今後生じていくのであろうか。今回は、特に昨今話題を集め始めているシェアハウス業界、特に海外旅行者向けのゲストハウス業界の趨勢についての影響を考察してみたい。
話を進める前に、シェアハウス、ゲストハウス、それぞれの定義(世の中で明確な定義は存在しないため、あくまで当該コラム内での便宜上の定義となるが)を整理すると、シェアハウスとは同一建物内(ルームシェアは同一部屋内)に複数の入居者が同居して生活している建物形態であり、一般的に占有部と共有部を有している建物。その中で、更にゲストハウスとは、短期~中期の滞在者向けの簡易宿泊施設のことであり、一般的には外国人向けの安宿といったイメージが大きい。

 さて、ゲストハウス業界においても、インバウンド増加の影響は明らかに存在すると考えられ、そのことは、実際にシェアハウス(日本シェアハウス・ゲストハウス連盟会員運営)に概ね1ヶ月以上入居している入居者に対する「シェアハウスに入居しようと考えた理由」のアンケート結果において、「外国人や経歴の異なる人々と交流できそうだから」が「初期費用が安いから」に次いで二番目の理由にあげられている(47.5%)ことからも推察できる。
先に述べたとおり、一般的には海外旅行者向けの簡易宿舎をゲストハウスと呼ぶことが多く、バックパッカーなどが一時的な滞在場所として利用している。一例として、東京蔵前にある株式会社Backpacker’s Japanが運営する「Nui.」を紹介する。ここは、もともとおもちゃ屋さんの倉庫だった建物をリノベーションをかけてゲストハウスとして再生した場所で、1階は天井の高い(もともと倉庫のトラックをつける場所だったため)カフェバー&ラウンジで2~5階に宿泊者が泊まる部屋が用意されている。最近のゲストハウスは、共用部でのコミュニケーションによって付加価値を創出する目的のものが多いが、この「Nui.」も例外ではなく、1階では宿泊している多くの外国人が各々交流を深めていた。運営しているスタッフの一人によると、「2020年の東京オリンピック開催決定もあってか、最近はゲストハウスを運営したいという若い人がよく見学に来ます。」とのことで、インバウンド増加の波は確実にゲストハウスの増加に寄与していることがこの発言からも推察される。

 では、そのような状況下で運営者側は今後についてどのように考えているのだろうか。
 一般社団法人日本シェアハウス・ゲストハウス連盟は株式会社シェアシェアと共同でシェアハウス運営事業者63社にアンケートを試み、「シェアハウス市場調査2013年度版」の中でその結果についてレポートしている。ここでは、そこのデータを引用し、ゲストハウスの趨勢を考える上での参考としてシェアハウスの今後に対する運営者側の認識を整理する。
 そこでは、「今後、シェアハウスを運営していく上でターゲットとして重要視する入居者層」において、「社会人(76.2%)」に続き、「外国人(58.7%)」が挙げられており、「外国人と共同生活を送り、英語会話力を上達したい」と考える日本人など、外国人を顧客とすることで、日本人入居希望者の集客アップにつながると考えている運営者も多いとレポートされている。また、「自社のシェアハウス事業の展開の方向性」についても、「積極的に拡大していきたい(19.0%)」「よい物件があれば拡大していきたい(55.6%)」と拡大意向を示す運営者が7割強に上ることが示されている。運営者側もインバウンド増加の波を機会と捉え、拡大していく意向があることが推察できる。事実、株式会社Life-style innovationの調べによると、シェアハウスの物件数は年々増加しており、関東圏だけで2012年に2,000件以上に上るとされているし、シェアハウス事業者数も年々増加している。

 では、そのようなシェアハウス業界全体での順風満帆な流れの中で、ゲストハウス運営者が成功する為に押さえておくべきポイントとはどこになるのかについて考えてみたい。
 どのような業界でも事業を伸ばすためのポイントに他社競合との差別化が挙げられるが、ゲストハウス業界においてもそれは例外ではないだろう。上述で引用したレポートの中でも「運営するシェアハウスのコンセプト設定」を行っているとするシェアハウス運営事業者は74.4%に上っている。では、インバウンド増加の中で差別化する際に気をつけるポイントとは何であろうか。
 私は、至極基本的な考え方にはなるが、「精緻なターゲッティングとそれに合わせたコンセプトの明確化」がポイントだと考える。そのためには、「①国別の訪日外国人特性の違いを把握すること」と「②バックパッカーやパッケージ旅行など旅行スタイルの違いを把握すること」の2点が重要になるのではないか。
 実際に、2013年のインバウンドの国・地域別割合では、東アジア(韓国・台湾・中国・香港)からの旅行者が64.9%を占め、年代で言うと20~40歳代が中心となっている一方で、それらの地域からの旅行者はパッケージツアーが多く、簡易宿所の利用を志向すると考えられるバックパッカーは欧米からの旅行者の方が多いというデータが出ている。外国人旅行者の特性は国毎にも旅行スタイル毎にも異なるのである。自身が運営する訪日外国人向けのシェアハウスを中国から家族でくるパッケージツアー者を狙ったものとするのか、欧米から来る単身バックパッカーを狙ったものとするのかだけでも、運営する建物のコンセプトは大きく異なり、提供するサービスも異なったものとなるだろう。そこを踏まえ、他のシェアハウスがやっていない運営コンセプトを明確に打ち出し、ターゲットとする旅行者のニーズを捉えることができれば、インバウンド増加の波に併せて事業を成功させることができるのではないだろうか。

 繰り返しにはなるが、増加していくインバウンドを受け入れ、国内経済の活性化を促す上では、ストック型社会への転換という国全体の方向性も踏まえると、2020年東京オリンピック開催に向けて、今後既存の使われなくなった倉庫や空き家に対してリノベーションを行い、魅力溢れるゲストハウスとして再生するといったケースは増えていくことが予想される。(前述の「Nui.」の事例もまさに倉庫をリノベーションしてゲストハウスとして再生した一例であった。)
 公益財団法人東京観光財団が「平成24年度国別外国人旅行者行動特性調査」と称して、外国人旅行者に対する調査を行っているが、その中で国別の「行動の満足度」として、韓国及びフランスの第1位は「親族・知人訪問」、中国の第1位は「ショッピング」、英国の第1位は「日本の文化や歴史に触れること」、イタリアの第1位は「街歩き」という結果が出ていることも踏まえると、私の個人的見解としては、イギリスを中心とした欧米からのバックパッカー向けに、日本の古民家、寺の宿坊やもともと日本を支える伝統工芸の職場として使われていたが現在使われなくなっている建物など、日本の良さ・文化を感じることができる建物に対するリノベーションを行い、「日本の良さ・文化を肌で感じることができる」かつ「衛生的で快適な生活空間」を提供する、短期滞在者向けのゲストハウスは魅力ある施設として人気を博すことができるのではないかと考える。

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