2013.01.24
次代の電力インフラづくりは消費者が主役に!
東日本大震災以降、省エネは日本の国民意識にすっかり定着したと言ってもいいのだろうか? 私たちは省エネが必要だという事は認識しているものの、現在の生活の中で、自分達の省エネ努力がどれだけ成果をあげているのかを具体的に知るには至っていない。しかし、スマートグリッド構想が具体化される事により、各家庭において、より具体的な省エネの実態を知る事で、エネルギーをマネジメントできると言われている。
ところが、ここに来て省エネバリアの問題が取りざたされるようになってきた。省エネバリアとは、最新の省エネ技術や省エネ機器を導入すれば、電気料金やガス料金などの低減によって、利用者にとって確実な利益を見込めるにもかかわらず、最新の省エネ技術や省エネ機器の普及が進まないことを意味する。
電力中央研究所の調査は、高効率な暖房機器であるはずのエアコンでの暖房利用が進まない理由を分析し、そこから以下6項目の省エネバリアの要因を提示している。
1)情報不足(Imperfect information)
何が省エネかよくわからない・・・光熱費に関する誤解など
2)動機の分断(Split incentives)
省エネの利害が一致しない・・・備え付け機器や、光熱費込みの契約など
3)限定合理性(Bounded rationality)
時間や気持ちの余裕がない・・・その場しのぎの判断など
4)資金調達力(Access to capital)
お金の余裕が無い・・・機器代に対する予算制約など
5)隠れた費用(Hidden costs)
機器代や光熱費だけではない・・・暖房性能などに対する効用の低下など
6)リスク(Risk)
先のことはよくわからない・・・高い割引率=短い投資回収年数など
中でも、光熱費やエネルギー効率に関する「情報不足(Imperfect information)」が省エネバリアに対して特に影響を与えるものであった。つまり、省エネはエネルギー効率に関する利用者側の認識不足に大きな問題を抱えている。当然のことながら、認識が高まらなければ消費の動機にもつながらない。身近な例を上げれば、LED照明器具が省エネに効果的だとわかっていても、毎月の光熱費にどれだけのインパクトがあるのか、その試算方法すらわからないのが実態である。むしろ、LED照明の価格の高さばかりが目立ってしまい、購入にブレーキがかかってしまう。供給側がいくら努力しても、需要側がその価値を認めなくては、省エネ技術も省エネ機器も思うように普及しない。このことから、需要サイドである消費者に対して適切な情報を提供すると同時に、否応なく省エネ技術や省エネ機器の価値を認め、能動的なアクションをとれるように仕向ける施策が重要になる。
既に様々な研究機関やシンクタンクからの省エネバリアに関する提言が出されている。その中で注目したいのは、日経・CSISバーチャルシンクタンクが指摘する「消費者による電力需給調整」だ。これは、省エネバリアを克服するには、消費者サイドの能動的なアクションが必要であることを指摘するもので、その鍵を握るのはスマートグリッドの構築にあるとしている。 スマートグリッドの構築は、電力需給の逼迫時において、消費者が意図的に住宅やオフィスビル内の電気製品の出力を抑制したり、蓄電池や電気自動車の充放電などを活用したりして需要量を調整する対策を可能にする。従って、需要サイドである消費者の能動的なアクションを如何にして引き出すかがスマートグリッド構想の課題となる。
消費者の能動的なアクションを引き出すために、最初に普及しなければならない省エネ機器は、スマートメーターであることは言うまでもないが、注視すべき点は、スマートメーターのオープンアクセス化にある。
既に東京電力が2018年までに関東の1700万戸にスマートメーターを設置する計画を打ち出しているが、当初東京電力の計画では、スマートメーターの仕様はクローズドな環境下に置こうとしていた。ところが、政府から標準規格に準拠したオープンな仕様に変更するよう指摘を受け、通信プロトコルにインターネットで使われているTCP/IPを実装することに改めた。政府も今後5年以内に全国の利用者の8割にスマートメーターを導入する目標を掲げている。この施策に倣って、各地域の電力会社は設置計画を推進し始め、スマートメーターのオープンアクセス化は大きく前進した格好だ。このままスマートメーターの普及に拍車がかかれば、日本の電力事業を大きく変革する起爆剤となる事が期待される。
しかし、単にスマートメーターが普及しただけでは不十分だ。スマートメーターの普及によって得られるデータ分析による活用と、消費者の節電インセンティブを高める「ネガワット」の取引市場の整備も必要になると考えられる。「ネガワット」とは、企業や家庭が節約した電力について同量を発電したとみなし、電力会社が買い取る制度のことで、企業や家庭の電気使用量を抑えるのに加え、売電収入も得られるようにする。そこで、消費者の能動的な節電アクションを促す事を期待できるため、発電所を増やす代わりに消費抑制で需給を調整する「デマンドレスポンス」の実現に有効な手段とされている。また、スマートメーターの普及と同時に忘れてはならないのは、データの有効な活用法を見出すことで、「新しい電力インフラ」を創造する事が極めて重要になるということだ。従来、「電力は供給されるもの」という考え方しかなかったが、これからは「地域で生産し融通し合うもの」という考え方に変化する。一般家庭、地元企業、行政などが一体となって相互連携し、当該地域の「新しい電力インフラ」を高めていく事が見込まれる。このような「新しい電力インフラ」を創造するためには、国や政府の後押しは言うまでもないことだが、より重要なことは、需要側である消費者自らが地域一体となってエネルギーを融通し合う生活スタイルへの変革に参画することだ。需要側が主体的に取り組む事で、供給側の様々な負担も軽減する。まさに、これまでにない「新しい電力インフラ」の創造となる。
私たちは、もうすぐそこまで来ている「新しい電力インフラ」の姿がよく見えていない。省エネバリアの問題解決には、政府や関係各所による「新しい電力インフラ」の姿をよりわかりやすく、より身近に感じるものとして示すことが不可欠だ。私たち消費者がもっと能動的に関与してこそ「新しい電力インフラ」は整備される。
国や政府に頼らない、消費者が主役となってつくりあげる上げる電力インフラこそ、次代に求められている日本の社会インフラ整備の在り方だと考える。
アーリーバード