PMI Consulting Co.,ltd.
scroll down ▼

2009.11.17

ビジネスパーソンに求められる「大和心」

 企業の経営者やリーダー層の一部で、古典が話題に上げられることが増えてきたように感じる。異業種交流会・勉強会のテーマに源氏物語が取り上げられる等、古典が注目されるようになってきている。個人的にも、「学生の時にもっと勉強しておけばよかった」と後悔しながらも、楽しそうに源氏物語の感想をお話になるお客様とお会いしたことがある。
 以前からも、「歴史小説から学ぶことがある」と、好んで歴史小説を読むビジネスパーソンは存在している。その多くは戦国時代や幕末から明治初期を扱ったもので、合戦における戦略・戦術や諸外国との交渉における駆け引き、あるいは武将や志士の生き方そのものを参考にするために読んでいた方が大半であろう。では所謂、平安文学などの古典から、企業経営者・リーダーは何を学ぼうとしているのか。
 それは平安時代に記された書物から登場する「大和心/大和魂(やまとごころ)」という言葉・概念に隠されているように感じる。この「大和心」に、現代のビジネスパーソンにとって有益な示唆が含まれていると考えられるのではないだろうか。

 そもそもこの「大和心」とは何か。古語辞典で調べてみると、複数の意味合いがあることが分かる。様々な時代を経ることで多様な解釈が生まれた言葉であるが、そもそもの起源から遡りたい。この言葉が初出したのは源氏物語と言われている。大和心という言葉・概念は、漢才(からざえ)という語・概念と対のものとして生まれたとされ、和魂漢才(わこんかんさい)という言葉もあった。そのため、大和心を理解するにはまず漢才から理解することが必要になる。ここでの漢才とは、漢(中国)等から流入してきた知識・学問のことを指す。和魂漢才とは、漢才をそのまま日本へ持ち込むのではなく、あくまで一般的な基礎的教養として採用し、それを日本の実情に合わせてカスタマイズして政治や庶民の生活に活用することを意味する。そこから「大和心」は、机上の知識を現実の様々な場面で応用するための判断力・能力を表すようになり、「実務能力」の意味で用いられるとともに、日本独自の文化である和歌による交流で求められる「情緒を理解する心」という意味でも用いられていた。
 一般的に「大和心/大和魂」と言うと、大正・昭和初期に使われていた「国家への犠牲的精神/他国への排外的な姿勢」という意味を含んだ言葉を思い浮かべる方が多いだろう。これは、江戸時代後期から国学者によって「大和心/大和魂」が日本の独自性を主張するための政治的な用語として使われ始めた事に由来する。その結果、「外来(中国・欧米)の知識を取り込み、独自に解釈して柔軟に応用する」という和魂漢才・和魂洋才(わこんようさい:和魂漢才の応用語)の精神は薄れていき、従来の「大和心」の意味は薄れていってしまった。

 では、昨今の経営者やビジネスパーソンが興味を持つ「大和心」とは、源氏物語で使われている意味と同様のものなのであろうか。ここには多少、現代流の解釈が必要になるだろう。そもそもの「外来の知識を取り込み、独自に解釈して柔軟に応用する」よりも、「情緒を理解する心」の意味の比重が大きくなっているのではないだろうか。それはビジネスに於いて「相手の共感を得ること」の重要性が高まっているからだと考えられる。
 外部環境がものすごいスピードで予想もできないような変化をすることも珍しくなくなった昨今、企業はこれまでの前提や常識を覆すことが必要となる場面に頻繁に直面するようになってきたと言える。しかし、一般的に人間はこれまでの前提や常識を覆すことに非常に大きな抵抗を感じる。そのような人間の心を動かすことができるものの一つが「共感」である。「自分のことを分かってくれている=共感してくれている」と感じられる相手であれば、例え抵抗を感じても信じてついて行ってみようと考えるのが人間である。
 この共感を得る為に必要なのが「情緒を理解する心」ではないだろうか。人情等によってものごとを把握・共感する感受性というものは、時には論理や倫理といったもの以上に人の心を動かすことがある。平安文学では、漢才(学問などの知識や語学力)があるだけでは優れた人間としては認められず、大和心(景観や感情を和歌として読む力)も兼ね備えていなければならなかった。どんなに漢才の能力が高くとも、他者との交流の際に四季や過去の名歌を織り込んだ素晴らしい和歌を詠むことができなければ、決して高い評判を得ることができなかったという背景がある。
 異性とのやりとりや自身の境遇等、様々な場面を情緒あふれる和歌で綴られる平安文学は、現代においても他者と“共感”を得る為の非常に多くの示唆を与えてくれる内容であるとも考えられる。

 それでは、ビジネスにおける「大和心」を習得する為に、我々は古典文学から学ぶ他に日々何をするべきであろうか。「大和心」の前提になるのは、物事への強烈な興味関心である。身の周りの多くのこと、それはビジネスだけでなく、例えばスポーツ・芸能等、ありとあらゆることに興味を持つことは、それだけ自身の引き出しの数を多くする。そうすることで、自分が相手に伝えたいと考えているメッセージを、他者に伝わる形で例示することが可能になる。ある小説家の作品に造詣が深いお客様との会話の中で、自分の伝えたいメッセージをその小説家の作品を例として言い換えることができれば、通常に会話をするよりもより多くの共感を得ることができるはずである。自身の引き出しが多ければ多い程、その例示のパターンが増え、他者と共感を得るチャンスはより多くなると言える。もちろん、単純に引き出しとしての知識を多くするだけではなく、それを自分なりに解釈して意味付けする行為までを行う必要がある。
 ビジネスにおいても漢才(業務の専門知識や思考力)は欠かせない。しかしそれだけでビジネスが円滑に進むわけではない。人の心を動かす「大和心」もあってこそ、他者を巻き込んだより大きなビジネスが可能になる。21世紀の今こそ、改めて過去の日本人が重視してきた価値観を見直し、その考え方を発展・継承させていく必要があるではないだろうか。

ホームタウン

Recruit

採用情報

お客様と共に成長し続ける新しい仲間を求めています

Contact

お問い合わせ